« 9月です | Main | マロニエ三態 »

2005.09.02

レコードはまっすぐに

はんぶるの山崎浩太郎さんが訳されたジョン・カルショーの自伝「レコードはまっすぐに」を読了しました。
カルショーの本というと、私の世代には「ニーベルングの指輪」が何とも懐かしいのですが、この「レコードはまっすぐに」は、彼が携わったレコード制作全般の現場や裏側で起きていたことのエピソードが中心となっています。

本書を読んで思うのは、まずは、SPからLP、ステレオへと新技術が登場していたこの頃、クラシックレコード業界はずいぶんと元気だったなぁということ。「EMI最後のオペラスタジオ録音か」なんていう今とは時代が違います。またデッカがEMIなどと比べると新興勢力的で活力があふれている(と言う風に少なくとも読める)だけに、その感が一層強いのです。

しかし、それでも(と言うべきか、そうした時代だからと言うべきか)契約とか会社としての意思決定は非常にいい加減に行われており、-まあそれは今でも身の回りに見ないこともないわけですが、-そのこと(と会社の官僚主義)に対する彼のフラストレーションは相当なものであったようです。そして、後年のデッカの凋落(と本人が言っている)の原因もそこに求めている様子には、きっと執筆当時(逝去の直前です)の彼はそれほど幸せではなかったのではないかとまで思わされてしまいます。

舞台裏のエピソードは何に限らず面白い物で、その点、文字通り「オフレコ」話の連続は読んでいて飽きることがありません。が、本書の中のカルショーはちょっと格好良過ぎかと感じる点もあります。記述には、レコードにはこうなっているが真実はこうだった、的な面があるわけですが、章末ごとにつけられた山崎さんの注が、そのカルショーの「真実」も実は事実とは限らないことを「暴露」していて、非常に興味深いです。単なる記憶違いなのか、それとも嘘をついているのか。まあ、人間の記憶の常として知らず知らずに都合良く記憶してしまっているというあたりかもしれませんが。

山崎さんの仕事は、この点、訳者という枠を超えてカルショーの立ち位置を相対化するところに及び、本当に立派なものだと思います。それによって、読み手がこれをより一層自分のこととして感じられるようになっていると思います。

また、面白いのは、制作者側が気乗りせずに、あるいはやっつけ仕事的に作ったようなレコードでも、受け手の側はそれなりに価値を見いだしていたり、場合によっては「名盤」扱いされている例もありそうなことです。まあ、単にカルショーの好き嫌いかもしれませんが。

|

« 9月です | Main | マロニエ三態 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

遅くなりました。ごめんなさい。
そうです!アマゾンで検索して、確認してきました。
タイトルは、ぜんぜん違いましたね。

楽しいお話でしたよ。
実際にそんなことが為されていたかどうかはわかりませんが、スカートの裾を踏んで後ろ向きに歌わざるを得ない状況にして足を引っ張るとか、そんなエピソードも。 でも、登場人物全てが「愛すべき人々」として描かれていて、読後感も良かったです。
あとがきに「続編がある」とあったのですが、アマゾンには出ていないので、翻訳されなかったのかもしれませんね。

EMI の件、どうもありがとうございます。
そんなに CD などを購入する方ではないのですが、時代の移り変わりをちょっと寂しく思ったり。。
でも、「予定がない」ってだけのことのようですし。 次の予定が入るのかどうかわかりませんが。。

Posted by: macomoco | 2005.09.15 at 02:41 PM

macomocoさん

ええ、そういう話があるんです。詳しくはこちらをどうぞ。
http://okaka1968.cocolog-nifty.com/1968/2005/02/post_17.html

それからそのオペラ歌手が出てくる小説は、ええと、
「気ままなプリマドンナ」でしょうか?気になっていながら読んでいない本です。

Posted by: 亭主 | 2005.09.05 at 04:24 PM

> 「EMI最後のオペラスタジオ録音か」
そんな話があるんですか?! びっくりです。
なんともねぇ。。。

この記事を読んで、実在したオペラ歌手が登場人物としてたくさん出てくる探偵小説(推理小説ってわけでもない)があったのを、思い出しました。
もちろん実録ではないのですが、いろいろと裏話などもあって、面白かったです。
読んだのもずいぶん昔で、書かれたのはもっとずっと昔なので、うろ覚えのタイトルで探してみたのですが、見つけられませんでした。
「喝采がお待ちかね」とか、「カーテンコールがお待ちかね」とか、そんな感じのタイトルだったかと。
時代が同じかどうかはわかりませんけど、古き良き時代って感じでした。

Posted by: macomoco | 2005.09.03 at 09:11 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/10092/5746292

Listed below are links to weblogs that reference レコードはまっすぐに:

« 9月です | Main | マロニエ三態 »