「最上川舟歌」の成立に思う
丸谷才一の「綾とりで天の川」はこの人のオール讀物連載のエッセイをまとめた中(全部で何冊あるか数えたことはないのですが多分全部読んでいるはず)で一番新しいものです。
その中に「舟歌考」という文章があって、最上川舟歌の成立過程(というと何だか大げさですね)を論じています。
それによれば、この世界三大舟唄の一つは、昭和の初めの頃に作られた物で、その形で昔からあったわけではないのだそうです。ここのところ言い方が微妙ですが、素材となる唄(複数)はあって、それを元に創作したということらしいのです。
このくだりは、丸谷の「舟歌考」を読んで頂くのが一番ですが(読ませます)、大体のことは、この歌の故郷、大江町のホームページに書いてあります。NHKから「番組に使いたいので良い舟唄があったら紹介して欲しい」と話があったことがことの発端というのは、昨今の色々なテレビ番組を巡る事件を思い起こさせるものがありますが、それはさておき。
曲を作った歌手(上記HPでは編曲となっていますが)後藤岩太郎は、東北民謡試聴団なる方々の前でこの歌を披露して「この歌は昔からあるものか」と聞かれて「そうだ」と答えており(昭和16年のことです)、伝来の民謡ということになってしまったわけです。後年、この後藤氏は、自作であることを認めて「私が作ったなんて言ったら誰も認めてくれない。しかし、誰が歌い出したともなく歌い出して伝わっていくのが民謡というものじゃないか」と、まあ開き直っているのだそうで、純粋民謡(?)が近代の創作かを争うというレベルの話ではありません。
さて、クラシック音楽界でもありますね、こういう話。
有名なのはクライスラー。山崎浩太郎さんの簡潔なアーティクルでは、動機については触れられていませんが、クライスラーはヴァイオリンの演奏は良いけれど作曲者としてはねぇ、なんて言われて、それだったら自作をそうでないと言って発表すれば受け入れられるだろう、と思ってやった(そしてその目論見は見事に当たった)、というのがよく聞く話です。後藤岩太郎の話と似ています。
もう一つ、最近坂本くんのところで「ゴールドシュタインの交響曲第21番」という話もあるのを知りました。こちらは体制とか民族問題とかも絡んでいそうな話です。
おまけその1
ところで、上記の「東北民謡試聴団」なんですが、丸谷本でも「試聴団の面々が豪華」とされていますが、確かに凄い。柳田國男、折口信夫、田辺尚雄、町田嘉章、信時潔、中山晋平を含む20名だそうです。民謡の地位が(というのも変ですが)高いというか、社会的に強いインパクトを持つものだったんでしょうね。
おまけその2
世界三大舟唄と上に書きましたが、あと2つは何だと思われますか?上記大江町のサイトの別のページに答がありますが。。。誰が決めたんでしょうね。そういえば、「トルコ料理」も世界三大料理の一つ、とよく自称していますが、本当でしょうか?多分フランス料理と中華料理が3つの内の2つであることは間違いないと思いますが、3つめはみんな自分だと名乗るんじゃないかなぁ。
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