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2007.10.14

上岡敏之/ヴッパータール響

みなとみらいでの上岡敏之指揮ヴッパータール交響楽団の演奏会。モーツァルトの23番のピアノ協奏曲(弾き振り)にブルックナーの7番というシャープ系のプログラム。晩年のベームがこの組み合わせを好んでいたような記憶があります。
このコンビ、ブルックナーのこの曲の来日記念盤が90分超の演奏時間と話題となっており、週末に横浜で演奏会があることを知って、みなとみらいも初めてだしなぁ、と出かけてきました。

上岡は既に読響やN響にも客演をしており、我が国での知名度も低くないのかもしれませんが、ワタクシにとっては、今まで全くノーマークで、名前を聞いたのも初めてだったかもしれません。

いやぁ、素晴らしい指揮者です。音楽のある人です。そう、指揮者と言うより音楽家ですね(ピアノも上手だからと言う意味ではもちろんありません)。これから彼の活動からは目が離せません。

急に思い立っての遠征(といってもみなとみらい線の開通で、渋谷からわずか30分)だったので、当日券あるかしらんと少々不安ではありましたが、3階最後列の安い席を無事にゲット。2時の開演ですが、終演予定は4時半とのが貼り紙が。確かにブルックナーの演奏時間からはそうなるのでしょう。オーケストラ・コンサートにしては長丁場です。客席には空席が結構あったので、良い席に移動しようかと思いましたが、チューニングの音を聞いて十分に聞こえそうだったので、とりあえずそのままの席で。

まず、モーツァルト。弾き振りとはいっても、よくあるように指揮者兼ピアニストが客席に背を向けるようなピアノの配置ではなく、フツウのピアノ協奏曲のようにピアノは横向きに置かれていました。指揮をするときは協奏曲の指揮者の位置で、そしてソロになると跳んできてピアノの前に座って、というスタイルでの大活躍。
演奏は、オーケストラもピアノもすみずみまで神経の行き届いたものでした。チャーミングなところ、快活なところ、しっとりと歌うところ、きびきびしたところ、清楚なところ、それぞれの表情がとても丁寧に出ているこの演奏、当たり前のようではありますが、なかなか実演で接することも少ないのも事実です。特に1楽章と2楽章が素晴らしかった。ちょっと表現の振幅がモーツァルトにしては強すぎるのではないか、という声も出そうではありますが、ワタクシはこの演奏、断然支持いたします。こういう演奏は、時間をかけた丁寧な練習の積み重ねだろうなぁ、とも思い、飛行機に乗って飛び回る有名指揮者が次々と客演する「超一流」のオーケストラでは、実現が難しいことでもあるのだろうなぁ、などと考えました。

休憩後のブルックナー。同じ3階でも最前列へ移動して聴きました。指揮者登場。気のせいか上岡は既に曲に「入って」いるような風情でした。そういえば、昔テレビで、サヴァリッシュ/N響のベートーヴェンの全交響曲の開始直前の指揮者の表情の違いを映して見せた企画があったっけ。
で、タクトを上げ楽員も楽器を構えたとき、客席からかすかなカサコソという紙の音が。普通だったらそのまま始めてしまうような大きさの音(少なくともワタクシの席からは)だったのですが、一度指揮者はタクトをおろして仕切り直しました。実はそのときは、わざわざねぇ、と思ったのですが、始まった音楽を耳にした瞬間、なるほど、と。恐ろしいほどの緊張感に満ちた最弱音なんです。そして、チェロとホルンが紡ぎ出す旋律は、噂どおり遅い遅い。でも、決して間延びした音楽ではありません。何というのか、指揮者だけでなくオーケストラも、確信に満ちていて感じきり歌い抜いているという感じです。そうでないと、このテンポではもたれてしまってダメダメになってしまうところです。
曲が進むにつれて、喜びに満ちた驚きの時間が何度も訪れました。前半のモーツァルトでも感じた、すみずみまで神経の通った気持ちのこもった演奏をこのような大曲で実現することはなかなか容易ではない筈ですが、ここにはそれがあるのです。特に、繊細で優美な弱音(と無音)の何と美しいこと。こうなるとテンポの遅さはじっくりと音楽を堪能するに必要なのだと実感します。
1楽章、全体に遅いのですが、異常に遅いのは冒頭の自然倍音によるテーマが奏でられる部分で、案外(?)普通のテンポの部分もありました。特にリズミックな動きをするところなどです。そのほかは普通に(?)遅いといった感じですが、もしかしたら、全体の遅さにテンポの感覚が麻痺してしまったのかもしれません。
2楽章も遅かったです。ちなみにCDでは33分半!1楽章について今まで書いてきたことに付け加えることは特にありませんが、ワーグナーチューバとホルンのコーダでの彷徨は慟哭という言葉がふさわしいものでした。シンバル、トライアングル入り。
3楽章、スケルツォの主部は普通のテンポでしたが、トリオはまたまた遅いテンポで、音楽を堪能できました。なお、ティンパニが90小節目辺りでバチをとばすというアクシデントがありましたが、その後の複付点のフレーズは片手でしのいでおりました。お見事。このティンパニ、その前からGやCの音程が今ひとつピタっと来ていない感じがあったんですが、そのせいもあってのバチとばしだったのでしょうか。
4楽章、この冒頭がまた遅い。ただ、途中でかなり加速したりする部分もあって、この楽章はテンポの変化にかなり富んだものだったと思います。前から思っていたんですが、この楽章のテンポ設定はとても難しいです。特には1楽章の始まりが回帰するようなコーダの冒頭をどうするか。そもそも4楽章の冒頭のテーマが1楽章のテーマから来ているわけで、それをどうするのか。上岡がこの4楽章(特に冒頭)に設定したとても遅いテンポは、交響曲全体に統一性をもたらしたと思います。と同時に、4楽章の中では分裂気味になってしまった感もあるとは思いますが。ブロックごとにテンポを微妙に異なって設定していくところは、マーラーの4番ばり、と言えるかもしれません。また、とかく後半2楽章が軽くて弱くアンバランスといわれるこの交響曲全体のバランスにも新たな光を当てる結果ともなったようです。
このフィナーレだけは感服させられたとまではいきませんが、全体としては圧倒的な演奏でした。また良かったのが、演奏終了後の長い沈黙。最後の一音が消えてから指揮者が手を下ろすまでのかなり長い間(体感的には10秒以上)、静寂が続きました。こうはならず、時には早い拍手で演奏そのものがぶちこわされてしまったように思えてしまうことを多く体験してきたワタクシにとって、この日、横浜に集まったお客さんは、神のようでありました。
で、多分、90分はかかっていたのでしょう、この日も。聴いている間は長いとはあまり感じはしませんでしたが、時間的には既に4時半を少し回っていました。良い演奏会だった、と思って拍手を続けていたのですが、何回目かに指揮者が登場したときに、楽員も数人舞台に。え、まさか、この後にアンコール?無くて良いのになぁ、このブルックナーの後に何をやったってなぁ、雰囲気を逆に壊すような曲をやらないと良いのだけれど、などと思い、ショルティが8番の後にラコッツィ行進曲をやったという故事を不吉にも思い出す始末。ですが、聞こえてきたのは、「ローエングリン」の前奏曲(もちろん第1幕)。ああ、これなら良いなぁ、と楽しむことができました。
今度こそ本当に演奏が終わって、オケが引き上げても拍手はやまず、上岡一人が舞台に呼び戻されると、上岡がオケに再度舞台に出てくるように促し、また全員そろって拍手を受けるという光景にも接しました。それを受けるに値する演奏だったと思います。

最後になりましたが、このヴッパータール響。良いオケです。スーパーヴィルトゥオーゾではないし、旅の疲れか、色々と事故も散見されたんですが、音楽していました、それも室内楽みたいに緊密な。演奏しても音楽していないこともオーケストラコンサートでは結構ある中、今日は本当に音楽を聴く喜びを味わえました。

上岡のファンサイトを発見したので、リンクを張っておきます。

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Comments

コメントありがとうございます。

ええ、ワタクシ、90分超という点にまず興味を覚えたというのが正直なところでしたが、聴いてみて、美しく説得力のある演奏で、演奏会の方も大満足でした。今後も追いかけてみたい人です。

ひこにゃんも気に入って頂いてありがとうございます。

Posted by: 亭主 | 2007.10.19 at 07:35 AM

TBありがとうございます。
正直、ブル7のCDを買うときにかなり迷ったのですが、なかなかしっかりとした演奏にビックリしました。
上岡敏之、侮ってはいけない存在ですね。

話は変わりますが、ひこにゃんのテンプレート、可愛いですね~。
今後とも、よろしくお願いします。

Posted by: i3miura | 2007.10.18 at 09:24 PM

こちらこそありがとうございます。TBしながら何のご挨拶もせずに失礼いたしました。
いや、本当に素晴らしい週末の午後でした。みなとみらいホールは本文にも書いたとおり初めて行ったのですが、良いホールですね。天井桟敷まで良い感じの音が来ます。
ところで、本館の頃からお立ち寄り頂いていたとのこと、恐縮です。なかなか、最近はガーター亭も音楽系と堂々と名乗れるのかという様相を呈していますが、がんばって発進していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

Posted by: 亭主 | 2007.10.17 at 01:38 AM

はじめまして。TBありがとうございました。
本館は以前より拝見しておりました。
いやはや、長いコンサートでしたが、極めて充実してました。
そして、あのホール、いい響きだと思われませんか。
少し女性的な柔らかさがありますが、雰囲気も加味するとワタシ的には大好きなホールです。
pfaelzerweinさまのコメントの通り、ドイツでも地方オケは大変そうですが、わが上岡氏の力量で新風を巻き起こしてほしいものです。

Posted by: yokochan | 2007.10.17 at 12:31 AM

コメントありがとうございます。
一見した感じで、若い人ばっかりだな、という感じでもなければお年を召した方ばっかりだな、という感じでもありませんでした。金管や打楽器は若かったですね。クラリネットは比較的お年かも。他の木管は、まあ普通。弦も、まあ、普通では、という感じです。

しかし、ドイツの一都市一歌劇場というのは、もう難しい時代になってきているのでしょうね。でも、クナッパーツブッシュ、ヴァント、シュタインを輩出したヴッパータール辺りでもそうなのか、と思うと厳しさをひしひしと感じます。

Posted by: 亭主 | 2007.10.14 at 06:23 PM

他の方の記事も、またそれをさらにここで読んで、大変良い評価であったのを確認しました。なるほど「丁寧な練習の積み重ねだろう」は、この交響楽団の事情を察すると想像出来ます。

この劇場管弦楽団の前身を十年ほど前にシニトケのオペラのドイツ初演で聴いたことがあります。当時から給与体系Aクラスで若手楽員の通過点ともなっていたようです。しかし、劇場自体はむぢろ演出で有名でした。しかしその当時から既にその傾向があったのですが、会員不足で2001年に閉鎖に追いやられての、雇用対策からの楽団維持のようです。

何処の劇場も楽団も縮小吸収合併の流れにあるのですが、そうした苦境の中で、こうした演奏が繰り広げられるのは興味深いです。楽員の平均年齢はどのような感じだったでしょう?

Posted by: pfaelzerwein | 2007.10.14 at 03:42 PM

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Tracked on 2007.10.17 at 12:20 AM

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