若杉弘のベートーヴェン7番
若杉弘が亡くなって5ヶ月が過ぎました。年末になってタワーレコードと東京フィルとの協同企画により、このベートーヴェンの7番とシューベルトの未完成、そしてブルックナーの9番の2枚のCDがリリースされました。
ベートーヴェンは2006年4月の、シューベルトは2007年12月のいずれも東京におけるライヴ録音で、シューベルトは同時リリースのブルックナーと同日、そして若杉最後の東フィル定期演奏会の記録です。
このベートーヴェン、ゆっくり目のテンポで重量級の演奏です。めくるめくような音の奔流や快速さの快感はここにはありません。しかし、楽譜にある音をきっちりと弾かせ、鳴らし、聴衆に届かせることにより、なんと立派な音楽(皮肉ではありません)が生まれていることでしょう。感服しました。特に、第4楽章の終結に向かって遅いテンポを維持しつつ進んでいく中で音楽が高揚していく様には、とても興奮させられ、聞き終わったときの充実した感覚には代え難いものがあります。
70年代の半ば過ぎからコンサートゴーアーとなったワタクシにとって、若杉は、マーラーやワーグナーやシュトラウスなどの比較的珍しい曲をどんどん紹介してくれる存在で、コンサートで初めて聞いたのもケルン放響とのマーラーの5番だったと思います。都響とのマーラー、ワーグナー、ブルックナーとメシアンというツィクルスなどなど。ベートーヴェンはその後、N響で8番、4番などを聞いた記憶はありますが、7番は聞いたことはなかったのではないかなぁ。でも、いずれにしても、当時の若杉であれば、もっと颯爽とした演奏をしていたのではないかと思います。
ワルター・クリーンにつけたモーツァルトの第27番の協奏曲では、細部を大切にした、とても丁寧で行き届いた演奏をしていた覚えがありますが、あれが「進化」しての、このCDに聞くようなベートーヴェンということかもしれません。が、でも予想というか想像を良い意味で裏切られた内容の、この7番の演奏です。
色々書きましたが、一言で言うと、これを聞いてワタクシは朝比奈御大のベートーヴェンを思い出しました。
晩年だからこそこのような演奏になったと言えるかもしれませんが、まだまだ、こういう演奏をのこして欲しかったと思わずにはいられません。
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