オケ老人
「オケ老人」これは、えーと、アマオケを舞台とした音楽ビルドゥングスロマンと言えましょう。
そこにロシアの諜報エージェントの活躍?がサブストーリーとして絡みつき、手に汗握るサスペンスあり、涙あり笑いあり、はかない恋などもあり、なかなか面白い小説です。楽しみました。特にアマオケをやった(やってる)人には、身につまされる?ところが多数あるはずで特にオススメです。
30代の数学教師が新任地で聴いた市民オケの幻想交響曲の名演に感じ入り、学生時代以来さわってもいないバイオリンを再開してそのオケに入りたいということろから、話は始まります。
ところが、電話で連絡をとって練習に行った先は、ホルンはおらず、「エグモント」序曲をとまらずに演奏し続けられた「最長不倒」が伸びたと喜ぶような団体。しかも、全てのメンバーが老人ばかり。途中で○○フィルとは別の○○響に来てしまったことに気づきながらあまりの歓待ぶりに、彼は逃げ出せず、結局指揮者として毎週練習に通う羽目になってしまうのでした。
そのうちに、○○フィル(「幻想」をやった方)は、○○響から腕に覚えのあるメンバーが中心に大量脱退して作ったオケだし、両者のリーダーは当地の家電量販大型店社長と商店街の電気屋老主人、なんて因縁も加わってきて、話のテンションが上がっていきます。「フィル」の方は技術至上・競争主義で、「響」の方はゆるゆるでまったりとしたペースで楽しむ、なんてところも、効いています。
サブストーリーはミステリー仕立ての趣もあるものなので、内容はこの位にしておきますが、とにかく、この作者、人間を見る目が温かいんです。人情物というか世話物というか、そんな所につながる味わいもあります。それから、音楽の力を信じていると言うことがひしひしと伝わってきます。使い方もうまいです。最後の演奏会のシーン(ここが話自体もクライマックス)で、メインは「新世界」なんですが、音楽の描写こそちょっと気恥ずかしくなるような言葉が並んでいたりもしますが、頭の中に曲が流れてくると、それが効果的な映画音楽のようになってその音楽自体が読み手に相乗的に感情を湧き起こさせる、なんてことが起きたりしました。ワタクシの場合は。最後まで読んで、なかなか温かい気持ちになれる小説でした。
同じ作者には、「ちょんまげぷりん」という小説もあって、映画が近日公開されますが、これも作者の人間愛の中に、現代社会の「ちょっとおかしいぞ」みたいな直言が多々あって、なかなか読ませます。
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Comments
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私も市民オケに入っているのですが、とても興味深いです。
読んでみようと思います。
Posted by: | 2010.07.11 10:04 PM