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2010.12.28

新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」

新国立劇場の「トリスタンとイゾルデ」の新制作初日を見てきました。とても良い公演でした。

【以下、演出などにも若干触れますので公演に接する前に目にしたくない方はご注意下さい】

まず何と言ってもトリスタンのステファン・グールドが素晴らしかった!第3幕で事切れるまでほとんど疲れも見せずに歌い切ったこともさることながら、その美しい声が特筆ものでした。ああいう声で歌われると2幕の愛の場面がなかなか趣き深いものとなります。この役は、とかくパワーと体力重視でキャスティングされる場合もあるように思います(もっとも最後まで保たないとそれはそれで話にならない)が、ただ怒鳴っているだけのような人に出くわすこともありますから。強靱さと美しさを兼ね備えたこのグールドは、この日がロールデビューだったそうで、いいものに立ち会わせてもらいました。
これに対するにイゾルデのイレーネ・テオリンは、当代一流のワーグナー歌いの一人には違いないのでしょうが、そのちょっと割れるような声(が好みという人もむろん居るでしょう)に違和感を感じてしまいました(特に第3幕)。トリスタンとの対比でそういうことになってしまったのかもしれませんが。あるいは、ブリュンヒルデのようなもっと勇ましい役柄だったらもっと良かったかもしれません。
この点、役柄とぴったりはまって思慮深い感じがよく出ていたのはブランゲーネのツィトコーワ。私としては、キャスト中トリスタンに次いで評価したいです。
マルケ王のイェンティンスにはもっと深い掘り下げを期待したいところでしたが、クルヴェナールのラジライネン共々、まあ、困ったという程ではない。

歌手はそんなところでした。

大野の指揮は、エッチなところのあまりないものでした。ウネウネ、ベトベト系ではなく、かといって低カロリーでもなかったです。例えば、3幕冒頭の音楽は深い悲しみというよりは激しい慟哭。どこか表現主義的な匂いもするものでした。加えて、随所できっちりとリズムのパートを効かせていたので、推進力が生まれました。オケは特に弦はこの大野の音楽作りに沿った弾きぶりで、よくやったと思いますが、管の一部には「事故」とは呼べないミスやら音程の悪さもあり、う~ん、練習(と緊張?)が今ひとつかなぁ。まあ、初日でしたからだんだん良くなっていくことを期待したいです。

演出。非常にオーソドックスなものでした。マクヴィガーは「時には過激な演出」をするとか書かれていたのですが、これはフツウ。新国得意(?)の水が張られた舞台は確かに物語と合っていた(1幕と3幕)ものではありましたが、ちょっと不発気味でした。
それに対するに空に前奏曲の間に水面から上がった月がかかっていまして、これが赤くなったり白くなったりします。主役たちがどっちの世界にいるかによって色が変わるのかなと思いますが、ここは真面目に検証してみないとはっきりは言えません。でも、なかなか妖しい感じは悪くなかったです。全曲の幕切れではこの月が、出て来たところに戻っていくというシンメトリカルな構成。でも、その時、印象に残るのは赤い服のイゾルデが暗い舞台の後方にスポットを一人浴びて去っていくというシーンの方でした。ここはとてもきれいで効果的でした。
中間の2幕の舞台は森の中なわけですが、舞台の真ん中辺りには屹立する円錐形の石柱と、その頂きのとがった部分を取り巻く円環が、♂♀を表しておりましたが、この石柱は、プログラムに載っていたトリスタン墓石なるモニュメントをちょっと思わせるところもありました。ブルターニュの巨石文化につながるような。
まあ、全編悪くない感が持続しましたが(すごく良いと唸らされるわけでもないですが)、マルケ王の部下たちの動きが、1幕幕切れといい3幕終景直前といい、滑稽なのは、狙ったんでしょうかね。ちょっと不思議。

ということで、文句もつけましたが、全体としては水準の高い公演だったと思います。お正月を挟むので、テンションが直線的に高まっていかないのでは、ということは心配ですが、千秋楽辺りの盛り上がりは十分期待できるのではないかと。そうそう、初日でご招待のお客様が多かったのでしょうが、観客は妙に覚めておりました。残念。


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Comments

>yokochanさま
美しい舞台ですよね。ツィトコーワ萌えはアラベッラのメイドさん萌えに通じるものがあるのではないかと思っておりますが(木亥火暴)。ところでキャストの皆さんは、28日に終えて4日の公演ですから、案外「日本のお正月」を楽しまれているのかも、などと思ったりしました。

Posted by: ガーター亭亭主 | 2011.01.01 at 08:47 AM

>naopingさん
自分のエントリ読み返してみると、テオリンに冷たい(笑)ですね。テオリンへのブラヴォーへの対抗心かも(爆)。たしかに主役2人の水準はとても高い(というと他がダメダメみたいに聞こえるけれどもちろんそんなこともない)公演でした。中々感慨深いですね。

Posted by: ガーター亭亭主 | 2011.01.01 at 08:41 AM

こんばんは。
2日めにいってきました。
あんな人が多い新国は久しぶりでした。

マクヴィカーの演出。わたしは過激ぶりを期待したのですが、いたって普通。
ですが美しい舞台でした。
なるほどそうか、2幕は、凸凹でした。
あの海賊も、ユーモアの域に感じ取れればいいんでしょうが、ちょっと邪魔くさい感じでした。

グールドを見直しましたし、ツィトコーワにはまいってしまってます。
みなさん日本の正月を過ごすんでしょうか?
やっぱり一旦帰るんでしょうね。

Posted by: yokochan | 2010.12.31 at 12:35 AM

いい舞台でありました。グールド良かったですねえ。私は実はトリスタンにあんまり期待してなかったんで嬉しい誤算でした。テオリンはわたし的にはいいなと思ったので(まあ、「恋する乙女」ではなかったけど)、もう一回見たいなって思う公演でした。

Posted by: naoping | 2010.12.29 at 08:19 PM

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