メト来日の「ドン・カルロ」
メトロポリタン・オペラの来日ってチケット高過ぎだし、ノーマークだったんですが、レヴァイン御大がキャンセルしてルイージに指揮が回ってきたとあっては、行かずばなるまいとチケットを探して入手しました。どうせならネトレプコもキャンセルした後の方が、入手しやすかったかも。ルイージはレヴァイン体調不良時要員(?)として首席客演指揮者とかいうタイトルを受けているはずなのですが、御大が引退されるようなことがあったら、監督に昇格するんでしょうか。まあ、オペラ界の人事は魑魅魍魎の世界ですから、そんなにストレートではないと思いますが。
で、昨日は「ドン・カルロ」でした。NHKホール3階R14列(斜めになっているブロックとしては最後列)でD席3万2千円ってのはどうかとは思いますが、ま、ルイージなので仕方ない、と思っていったところ、開演前のさらっているオケの音がよく聞こえてくるんです。N響のとき、こんなに聞こえたかなぁ。ピット(浅めだった)なのでステージからよりも距離が近いとか、そもそもアメリカの団体は音が大きいとか、色々思ったんですが、開演して歌声を聞いて、これは音響技術の賜かな、と思いました。NHKホールでは生音だけではこんなに聞こえることはあり得ないと。
でも、決して人工的な、不自然な音や響きってことはまったくなくて、皮肉でも何でもなく良い仕事だと思いました。最初は、メト(NHKホールより更に収容人員が多い)でのノウハウが生きた来日スタッフの仕事かとも思ったのですが、プログラムによればSCアライアンスという会社が音響担当だったようです。
曲が成立したときに存在しなかった技術を使うことの当否は、何もこうした音響だけではなく、楽器の改良だって突き詰めれば同じ話ですが、ワタクシも正直言って生音に電気の手を加えるのは、かなり抵抗があります。でも、今回のメトを聞いて考えを少し改めました。少なくともこの曲この演奏この場所では、この方が良かった(ココまで書いて生音しか使ってなかったらドウシヨウ。。)。
このことにも現れているのですが、メトのコンセプトって、お客を満足させることにある、ということも強く感じました。そして、それって、20世紀になって色々とオペラもムズカシクなって来る前の19世紀のパリのオペラに近いんじゃないかと、まったく考証も何もありませんが直感的に思いました。娯楽、といって悪ければ、エンターテイメント(同じか(爆))。
さて、今回の収穫はなんと言ってもカウフマンの代役となったヨンフン・リーでしょう。スピントの効いたヒロイックな声は魅力的です。バリトン上がりのテノールには首をかしげるワタクシとしては、今後もこの人には注目です。ただ、まだ歌が下手です。それから、張り上げるところが汚くなる。ここは精進によって柔らかく歌える範囲が広がれば、そして上手に歌えるようになれば、ワンランクアップです。でも、そこはちょっと売れると引っ張りだこになって上達する前に声が終わってしまう例挙にいとまがない昨今ですから、かなり不安。
パーペは見事ですが、やっぱりイタリア人で聞きたい感はありました。さらに、苦手なのがホロストフスキーのヴェルディ。声が合わないとどうしても感じてしまいます。でも、ぶちこわしと言うほどではなかった。女声は可もなく不可もなく。
オーケストラは、長丁場の常として、第1幕ではまだまだでしたが(あ、今回は5幕版で、そもそもこっちがあまり耳慣れていないのかもしれません、第1幕は)、だんだんエンジンがかかってきて、ルイージによく反応していました。味わいとか音色とか、そういうもので勝負するわけではないので、欧州トップのオペラのオケとの比較もできませんが、まあ、シカゴ響みたいな位置づけでしょうかね。とてもうまいです。もちろんミス皆無とかそういう部レルの話ではなく。
ルイージは、予想通り素晴らしかったです。マエストロだなぁ。曲、オケも舞台も掌握して、って感じ。やっぱりイタリア人。歌う歌う、突進する突進する、しんみりとさせる、ヴェルディのツボをおさえた演奏でした。予定調和的に満足しました。
演出は、メトらしい伝統的なもの。色々とややこしいことを考えずに、楽しめ、浸れます。すべてはお客様の満足のために。媚びたりはしているっていう訳ではないですが。
オペラの一つのあり方(もう少しで「本質的な」と言いたくなる)を極めた、素晴らしい公演だったと思います。
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